最初のきっかけ


マイクロマウス競技といえば,知能を持ったロボットであると,多くの人がイメージするだろう.
しかし,マイクロマウス競技自体の源流には「知能」というものは一切なかった.
あるのは,工学部の教育教材であった.

工学部の目的は,座学によって知識だけ肥大化した学生を輩出することではない.
工学的な感覚を身につけた学生を輩出することである.
工学的な感覚を学ぶには,実際に機械を作る経験が必須である.

1970年初頭,学生が主体的に,楽しく取り組める課題にどんなものがあるかを考えた教授がいた.
課題名は「LeMouse-5000コンテスト」である.

LeMouse-5000コンテストは,
いかに長い直進距離を走ることができる機械を作るかというコンテストである.
動力源はバネ式ネズミ捕りで使われているバネのみが許されているなど,
安価で基礎的な材料のみが使用可能である点が特徴的である.

このコンテストに参加者の制限はなく,大学生だけでなく,大学の教授やプロのエンジニアも参加することができる.
表彰は

  • 純粋にもっとも長い距離を移動した機械を作った競技者
  • 移動距離/製作費が最も大きい機械を作った競技者
  • 純粋にもっとも長い距離を移動した機械を作った学生
  • 移動距離/製作費が最も大きい機械を作った学生

など,複数の観点で行われる.

このコンテストは,一見,ただ直進するしか機能のない単純でつまらない機械を作る競技に見えるかもしれない.
しかし,実際には,

  • 最低限の重量で,必要な機械強度を達する技術
  • 省エネルギーで長距離移動が可能な移動方式の考察
  • まっすぐ走るため,高精度な工作技術
  • トルクと速度のバランスがとれた動力伝達機構の設計技術

などが求められており,工学の基礎が叩き込まれる競技になっていた.

LeMouse5000コンテストは大成功で,1972-1973年のMachine Design magazineに何度も取り上げられ,競技者が楽しんでいる様子が記録されている.

  • 必要な投資がほとんどない.安価に,気軽に参加できる.
  • 自分のアイディアで好きな機械を作ることができる.
  • 学生だけでなく,プロのエンジニアも同じルールで大人げなく参加する,
  • 評価が定量的で1mmでも遠くに進んだ機械の勝利

など,現代のマイクロマウス競技会の雰囲気は40年前にすでに完成していたということができるだろう.